2024年最後に読んだ本。先に映画『オデッセイ』を見ていたので、かなりの部分が脳内で補完できた。先に小説だったら早々に諦めたかも、(SFが苦手なので)
絶望的な極限の状況下で、本人とNASAをはじめとする地球の人たちが懸命になって策を考える、という設定が私のオールタイムベスト映画『アポロ13』によく似ている。ただしアポロ13はクルーでの戦いだったが、今回の主人公は「火星にひとりぼっち」である。
主人公のマーク・ワトニーはどう考えても絶体絶命の状況であっても「なにかできるはずだ」と知恵を絞る。そして「できることからひとつずつ」着手する。失敗しても自暴自棄に引きずられることなく、原因をきちんと検証し、また挑戦する。
やるべきことが膨大に思えても、できることは一度に一つ。計画を立て、綿密なテストを繰り返し、一度の失敗ですべてを投げ出さない。そして着実に前進する。
彼から「まずひとつずつ問題を解決する」という大事な教訓を得た。私はなんでも取り掛かる前にあれこれ考えすぎて疲れてしまうことがあり、下準備はかなり綿密に行うが、その分想定外のことにめっぽう弱い、という面がある。
加えてすぐに「0か100か」という極端思考に陥ってしまうし、気分に行動を支配されることが多々ある。一時の感情にまかせて無謀な行動をとるのではなく、状況を冷静に判断し、粘り強く前向きなワトニーの姿勢は大いに見習いたいと思う。
実際、この本を読んだ後に仕事が立て込んだ日があったのだが、「ひとつずつ。ひとつずつ」と唱えてみると不思議と心が落ち着き、きちんとこなせたのだ。ありがとうマーク・ワトニー!
また、火星にひとり取り残されたワトニーが「船長とクルーに責任はない」と何度も何度も繰り返しNASAに告げるところが良かった。自責の念にとらわれるルイス船長に対して「あなたは最善の判断をした」と告げる。今回の事故をミスと捉えて原因追及のために彼女を委員会にかけるなら僕は断固として抗議する、と。
「たぶんあなたは、クルーを失うのは最悪の事態だと思っているでしょう。ちがいますよ。最悪なのはクルー全員を失うことです。あなたはそれを回避したんです」自分だったらこんなふうに思えるだろうか。
そしてこの作品の一番の魅力はワトニーのユーモアセンスだと思う。(もちろん彼がものすごく優秀であることは大前提なのだが)ハードな訓練でクルーたちの雰囲気が悪くなった際、ワトニーは率先していつもよりもジョークを飛ばしていた、と評されている。ジョークを飛ばすことで現実を見据え、理性を最後まで手放さない。ワトニーにとって、専門知識と同じくらいユーモアは自分を鼓舞する大きな武器となるのだ。
また地味に大事だと思ったのは在庫管理。これは映画を見るとよくわかるのだが、火星に置き去りにされた彼がまず着手したのが、残された食糧の在庫チェックだった。現在手元にある食糧と救助が来るであろう日数から、一日に自分が摂取して良い分量とカロリーを弾き出す。これ、貯金やダイエットにも使えるやり方だと思った。
映画はマット・デイモンはもちろんだが、ルイス船長演じるジェシカ・チャステインがとても良かった。いかにもな男勝りな女性船長像ではなく、エリート軍人であり、優れたリーダーであり、ディスコミュージック好きという楽しい女性なのだ。
以下、小説内からお守りにしたい箇所を抜粋。
もちろん、一年分の食糧で四年生きのびるためのプランが描けているわけではない。だが、いまは一度にひとつのこと。
最悪だ。もう死ぬ!
よし、おちつこう。絶対なんとかなる。
なにがあったのか説明すべきだろう。もしこれが最後のエントリーになるとしても、少なくとも理由だけはわかってもらえる。
ぼくはついてる。3200キロはそう悪い数字ではない。1万キロ離れていたっておかしくないのだから。
考えなくてはならないことが多すぎて、一度には無理だ。いまは電力のことだけを考えよう
もうおしまいだ。希望ももてないし、自分をごまかすこともできなければ問題解決の余地もない。なにもかもうんざりだ!
オーケイ、いうだけいってすっきりしたから、どうやって生きのびるか考えなくてはならない。まただよ。オーケイ、ここでなにができるか考えてみよう……。
オーケイ、自己憐憫はここまで。ぼくは破滅したわけではない。予定よりきびしい状況になっただけだ。生きのびるために必要なものはすべてそろっている。