いーむの日記

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「黒人が持ってる緑は大事じゃない」

殺人罪で服役した黒人のアイク。出所後庭師として地道に働き、小さな会社を経営する彼は、ある日警察から息子が殺害されたと告げられる。白人の夫とともに顔を撃ち抜かれたのだ。一向に捜査が進まぬなか、息子たちの墓が差別主義者によって破壊され、アイクは息子の夫の父親で酒浸りのバディ・リーと犯人捜しに乗り出す。息子を拒絶してきた父親2人が真相に近づくにつれ、血と暴力が増してゆき――。(Amazonより)

黒人のアイクの息子・アイザイアと白人のバディ・リーの息子デレクは共に何者かに殺される。ゲイに偏見のあった父親たちは手を組んで犯人を見つけることにする。

ただしこの父親たちが立派な父親ではなく、アイクもバディ・リーも服役経験のある元・受刑者。アイクは今は庭師として自営業を営んでいるもののの、バディ・リーに関しては酒浸りのトレーラー暮らし。
ふたりとも生前の息子が同性のパートナーと結婚すると告げたときも冷たくあしらった過去がある。だからこそ和解しないままで死んでしまった息子たちに対する思いが切ない。

殺人犯を追うストーリー展開の他にも、人種問題やLGBTQ、ジェンダーといった問題が会話の中にさりげなく盛り込まれていてそのあたりも興味深い。

貧乏暮らしをしている白人のバディ・リーがアイクに対して「本当に大事な色はドル札の緑だけだ」と言う。
あんたの経営している会社やトラックをもらえるなら立場を替わってもいい、と言われたアイクはこう返す。
月に四、五回は警察に停車させられる、通りを歩けば白人女性が黒人から盗まれないようにハンドバックをしっかり抱える、上着に手を入れて携帯を取り出そうとしただけで頭に二発ぶちこまれる、それでも替わりたいか?と。

アイクもバディ・リーもゲイに対しての知見が深まるわけでも誤解を改めるわけでもない。
ただ「どんな息子でも、ただいてくれればよかった」という後悔に突き動かされてどんどん進んでいく。

次のチャンスを与える価値がないと運命が決めるまで、人は何度正しい決断をするチャンスを与えられるのだろう。(本文より)

犯人と動機は「え?」という感じで肩透かしではあったものの、それを上回る魅力がある。
それがキャラクター造形であり会話のテンポとセンス。どちらも私が海外ミステリに求めるものであり、この小説はその欲を存分に満たしてくれる。

キャラクターに魅力があるので実写化されたりしないかな?とも思うが、
バディ・リーに関してはサム・エリオットの劣化版」と作中で言われているのでイメージしやすいのが嬉しい。
また孫娘を「ミス・リトル・ビット」と呼ぶのがとても愛らしい。「おちびちゃん」みたいなニュアンスだろうか。
次作もぜひ読みたいと思う作家に出会えてとても嬉しい。

【補足メモ】
・「木材粉砕機」と聞いた瞬間に映画「ファーゴ」が浮かんだ。
・庭仕事に使う「タンパー」という道具を思わず画像検索した