Hopelessly In Love:悲劇のカップル お互いを燃やし尽くしてしまうふたり

Amazonプライムでドキュメンタリーを探していて発見。TLCのレフト・アイ、亡くなってもう22年にもなるか~と思い鑑賞。

最強ガールズグループTLCのリサ・レフト・アイ・ロペスとNFLのスター選手アンドレ・リソンの熱愛の軌跡をたどる。異なる世界で活躍する2人の出会いと別れ、度重なる衝突と復縁。そして世界的なニュースになった放火事件についても赤裸々に告白する。リサの早すぎる死の陰にあったものとは?

むかーしMTVでやっていた『Past, Present & Future』というTLCのインタビュー番組を見て、レフト・アイがこのNFLのスター選手と交際しており、彼の豪邸に火をつけた、というニュースは知っていた。そのインタビュー番組の中でレフト・アイは『あの事件について報じているニュースは全部ウソ。アンドレも私も何も話してないんだから』と言い放っていたので、それ以来ずっと真相が気になっていた。

今回このドキュメンタリーでその疑問は解消できた。が、感想としては「なんていうかお互いを燃やし尽くすまで愛憎をぶつけあうカップルだな……」という感じ。

インタビューではふてぶてしく答えていたように見えた印象を更に強めたのが1994年11月号のVIBEのこの表紙。

www.vibe.com

確かアンドレの家を燃やしたのが同年6月のはず。その後に刊行された雑誌のカバーで消防士の格好をした上に、こんな文言が載っている。

TLC FIRES IT UP
BURNING UP THE CHARTS, BURNING DOWN THE HOUSE

『BURNING DOWN THE HOUSE』は直訳だと家を燃やせ、スラングだとイケてるパーティをやろうぜ、というような意味らしいが、このダブルミーニングはちょっとどうなんだ。いわゆる「シャレにならん」という言葉が浮かぶ。今ならそれこそSNSで炎上必至だろう。

インタビューを見ると、アンドレの妹がリサ(レフト・アイ)を非常に嫌っている様子で、最初は「お兄ちゃんかっこいいし、NFLのスターだし、彼女が自宅に入り浸ってて始終べったりしてたら、そりゃ面白くないわな」と思っていたが、だんだんと「これは仕方ないかもなぁ。リサがエキセントリック過ぎる」という感想になってくる。

TLCはT-ボズとチリはわりかし常識人というか穏やかそうなんだけど、リサだけ問題児っぽい感じはあったかもしれない。ソロになる云々もあったし。まあいくら豪邸で何部屋もあったって、彼女を呼び込むなら家族と別の家にしたほうが良かったよ、アンドレ。家族の前でいちゃつかれるの、ちょっと嫌じゃない?でも友人とか毎日入り浸ってはBBQやったりしてたらしい。そういうの疲れそうだけど。

ただこのふたり、何度別れてもまたお互いのもとに戻ってきていた模様。このふたりに共通するのは「父親を殺害されるという悲劇に見舞われていること(アンドレは継父)」、「その家族の長子であること(きょうだいを守る立場だった)」という点。早くに大人にならなくてはいけなかった者同士で惹かれ合うものがあったのだろうか。はたから見るとどう見たって別れたほうが良さそうなのに、なぜか離れないカップルっている。ホイットニーとボビー・ブラウンもそうだった。アンドレとリサの場合もDVはなかった、とは言っているものの、リサが亡くなっている以上真相はわからずじまい。

印象深かったのは、父親のDVに抑圧されてきたリサが、幼い頃に妹と見たという「バーニング・ベッド」という映画のワンシーン。妹が語ったところによると、DV夫に抑圧されている妻が夫の就寝中、寝室に火を付ける、というシーンがあったそうだ。(実際にアンドレ邸の火災現場に居合わせたリサの妹が「まさに『バーニング・ベッド』の世界よ」と語っていた)アンドレとの交際で追い込まれたと感じたリサが思いついた抑圧からの逃避が、幼い頃に思い描いていた『火を付ける』という行動なのだとしたら、あまりにも悲しすぎる。それでもリサを保釈しようと、呆れる母と妹を尻目に駆け回るアンドレ。こうなってくると「あんた家燃やされたんだよ?」と肩を揺さぶりたくなってくる。

またリサと2パックとの交際についても私は全然知らなかったので「えー!」という感じ。当時の様子をインタビューする相手が収監中のシュグ・ナイトってのもびっくりだったが。

また、アンドレが夜な夜な遊び回っている間に「彼と同じことをしてやろう」と思い、女の子だけで朝まで飲みに行った話など、おぉ!これはTLCの名曲『Creep』そのままじゃん!と思ったのだが、どうやらリサではなくT-ボズの体験談がヒントになったらしい。

歌詞は、彼氏に浮気されている女性が自分自身も秘かに浮気 (creep)するという内容で、女性の視点から書かれているが、これはリード・ボーカルのT-ボズの体験談を聞いたことがヒントになったとされる(Wikipediaより)

あの頃あんなに格好よくて世界中の憧れだった彼女たちですらこんな思いをしてたのか……と今さらながらため息が出た。

アンドレについては、NFLのスター選手になる前は上記の父親が殺害される以外にも、NFLドラフト前夜に家を銃撃される災難もあったそうだ。(有名になることをやっかんだ人の犯行だろうと家族は言っていたが、治安が悪すぎるだろう)

父を亡くし、家族を養うために早く大人にならなくてはいけなかった彼が、心休まる暇がないまま急激に華やかな世界にのめり込んで行き、リサとの交際によってますます自分の人生をハンドリングできなくなっていったように見えた。

最後のシーンでアンドレが17年ぶりにリサの家族を訪ねていく。現在の彼は高校生のコーチをしているとのこと。(「週末にトラブルを起こすな」という言葉に実感がこもっている)

結婚10年になる妻と四人の娘に囲まれて幸せに暮らしているそうで、互いを燃やし尽くすようなリサとの交際を経て、ようやく穏やかな愛を見つけられたようだ。娘たちにもリサのことを話している、と彼は語っている。(妻の名前も「リサ」というのはちょっと出来過ぎな気がしたが)

「彼女との交際に後悔などない」と言い切ったアンドレに、最後には「あっぱれ」と言いたくなった。

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